2010年11月6日土曜日

(墓90) ワラ人形の話





ワラ人形の話


 「ワラ人形」と聞いて思い起こされるのは、午前二時の丑三つ時。場所は神社の境内。白装束を着けた人が五寸釘を手に…、 という「呪いのワラ人形」ではないでしょうか?
 でも、呪いだけがワラ人形の役割ではありません。
 たとえば、この写真のワラ人形。これは、同じ家から同じ年のうちに二人の葬儀を出すことになった時、二人目の柩の中に一緒に納めるものです(この人形は葬儀社の社員のお手製。こういうものも作っているのですね、葬儀社では)。
 地域によってはコケシを入れたり、ぬいぐるみで代用する場合もあります。
 なぜこういう習慣があるのかというと、その背景には、同じ家から一年のうちに二人の葬儀を出すと、三人目も「呼ばれる」という民間信仰があるからです。ワラ人形は、三人目の身代わりなのです。
 この風習は昔からあり、明治時代の日本人の生活を記録した小泉八雲ことラフカディオ・ハーンも「人形の墓」(『仏の畑の落穂』所収)という作品で同様の習俗を報告しています。
 この作品は、三人目の死者を出さないために、人形を納める墓を作る…、という話になっています。
 火葬が一般的でなかった時代の、貴重な記録といえると思います。

 民間信仰というのは、現在の私たちには忘れられてしまっていても、身近なところに残っているようです。たとえば、何気なく行っている葬儀も同様。私たちの民族が昔から受け継いできた素朴な信仰に基づいている部分が、葬儀という営みのなかに息づいています。
By Hirohito OTA

※某葬儀社の企業ブログに投稿したもの。