2007年9月3日月曜日

(墓15)遺跡に残る生活の記憶~クスコ・聖なる谷で~

ピサックの遺跡には、記憶がある。
それは、いにしえの人々の、生活の臭いだ。
崩壊したインカ帝国の残党は、ここに逃れ、いつ襲撃してくるとも知れない「死の影」=スペイン人の軍に神経を張りつめながら、どんな暮らしをしていたのだろうか。
クスコ・聖なる谷の遺跡群に行くなら、夕闇の迫る遺跡に座っていたい。同じように、谷を見下ろす急峻な山の上の、たとえば、大きな石に腰かけ、消えゆく夕陽を眺めた人が、きっといただろう。
オリャンタイタンボの住居跡へと入る。
かつての漆黒の闇夜、冷徹な星々の星明かりの下で寄り添って眠る彼らの寝床の物音や息遣いまで、聞こえてきそうだ。
決して迎えられない希望に満ちた朝。どんなに眠っても、心のどこかが常に傷ついている目覚め。あり得ないインカ帝国再興。しのびよる破局。
しかし人々は、生きるしかなかった。
* *
クスコ地方の遺跡への旅は、幾つかの記憶に出会う旅になる。

太田宏人
『ペルー新報』(なぜか)スペイン語面掲載
(年月日不明)
合掌。


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