2007年9月3日月曜日

(墓27)焦り

しんぽう週末コラム

取材に行くため、セントロ・リマで
タクシーに乗った。
午後一時。車内でガジェータ(ビスケッ
ト)を食べた。タクシスタ(タクシー運転
手)にもあげた。

「親切に、どうも」
彼は、応えた。
自分も食べる。一袋に六枚入って五〇セン
ターボス。チョコラテ付きの美味しいやつだ。
私は、一枚まるごと口の中に放り込んで、
バリバリとかみ砕き、チョコの味を少しだけ
感じ取ってから、ゴクッと飲み込んだ。

運転手さんは、左手の中指、薬指、小指
そして手の平でハンドルをにぎり、親指と人
差指で、例のガジェータをつまんでいる。食
べる時は、ハンドルを右手に持ち替えて、ガ
ジェータを口に運ぶ。そしてひとくちひとく
ち、少しづつ食べる。この一連の動作をして
いる時も、前を見つめたまま運転する。

その日に灼けた武骨な横顔を見て、ハッと
なった。「バカだな、おれ」と、思った。

おれ、何をあわてて食べているんだろう?

あせっていたのは、取材の約束の時間に間
に合いそうになかったからかもしれない。し
かし、タクシーの客が慌てたところで車が早
く進むわけでもない。

本人は一生懸命やっているつもりでも、あ
んがい、このような「無駄なあがき」とい
うものが多いようだ。

それに気付いた。

タクシーは、昼下がりのリマを走り抜け、
目的地に着いた。

「有り難う」「こちらこそ、有り難う」
タクシーは、静かに走り去った。

それでは皆さま、どうぞ良い週末を ―。
(11/1)
「ペルー新報」掲載

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