クスコ県のピサックという村には、週に何回か観光客向けの市が立ち、国の内外から多くの人が訪れる。
一人の歳取った男の乞食がいる。ボロボロの服を着て、やぶれた靴を引きずるようにして歩きまわり、観光客の顔つきや服装を品定めしては、黒ずんだ顔を遠慮なく近付け、「物ごい」の手を、ぬっと差し出す。
尊大である。
オ前タチハ、金持チダ、ダカラ、俺ニ恵マナケレバ、イケナイ。
彼は、何回となくその手を差し出す。
「5センターボスたりとも渡さない」、という意志を見せると、すぐに通り過ぎるが、ふたたび現れて、あごをしゃくり上げるようにして、手を差し出す。
なにも恵んでもらえないのが分かっていて嫌がらせをしているのかもしれない。
かまわずに、無視をして歩き過ぎようとしたところ、乞食は脂と土で黒々と光る人差し指を伸ばし、私の腕に押しつけた。そして、またあごをしゃくる。何も言わない。目だけが光っている。
怒りと怖気が込み上げた。彼は、心の中まで、いやらしい。
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早朝のプーノ通り。ペルー新報に出社するため、もくもくと歩いていると、向こうから、公立の小学校の制服を着た子どもがやって来た。彼は、こちらの顔と服装をじろじろ見ている。通り過ぎる時、一瞬下を向いたが「セニョール…」と呼びかけた。「50センターボス貸してくれよ」。堂々と言い切った。
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心を、乞食にしてはいけない。
それでは皆さん、どうぞ良い連休をお過ごし下さい。
『ペルー新報』97年の日時不明
「しんぽう週末コラム」
合掌
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